「たしかに、剣道を生かせる職業って、あんまないよな」
 

俺が、新しい飾りを取ろうと、椅子から降りるとそう言った。
 

「そんなことないわよ。たとえば、警察とか、あと極めれば、師範代にだってなれるし…。あ、剣道部の先生とかどうよ?」
 
「えー、それはなんかなぁ」
 
「でも、三年になったら、本格的に進路決めだし、今決めとかないとまずいだろ。うっひょー、水田お気の毒に」
 
「あのなぁ」
 

三人は、進路の話で盛り上がっている。でも、向日葵は、この話で盛り上がれない。
 

今まで、プロのピアニストにだってなれる、とか、勝手に思ってきてたけど、なんだか悲しくなってくる。
 

「空川は、やっぱり音大?」
 

突然、水田が俺にふってきて、はっと我に返る。
 

「あ、ああ。一応な。いけるかどうかは、分かんないけど」
 
「いけるだろー。なんたって、天才ピアニストだからな。俺が画家になって、金持ちになったら、コンサート見に行くわ」
 
「友達なら、お金持ってなくても行くもんでしょうが」
 

そう言って、また笑いがあふれる。今度は、俺も一緒に吹き出して笑ってしまった。
 


準備もひと段落付き、クラスの人たちも、ちらほらと帰り始めてきている。


俺も、帰ってピアノの練習をしようと思い、帰り支度を始めた。