今までは、ピアノの演奏を聴いても何にも思わないどころか、嫌悪感さえ感じていたのに。ここまで聞きたいと思ったピアノ演奏は、初めてかもしれない。
耳を澄まして、音をたどっていく。
左だ。
俺は、左に向かって廊下を歩き出す。すると、じょじょにピアノの音は大きくなっていった。こっちであってるんだ。
まるで、見たこともないトンネルをくぐって、異世界に向かっている、好奇心旺盛な物語の主人公だ。
足が軽やかになって、最後の方は完全に小走りになっていた。
やがて、大きなドアの前で止まる。上の方には、『音楽室』と書かれた、プレートが貼ってあった。
中からは、一段と綺麗に『カノン』が聞こえてくる。
俺は、扉をがらりと開けた。
ピアノは目の前にあったから、ドアを開けた瞬間、すぐに目に飛び込んできた。
「っ」
衝撃のあまり、俺は目を見開いて、声が詰まった。
