こういう時、即座に向日葵は演奏を止めて、「もっと明るく!」と言うのに、今回は全く何も言わない。

というか、向日葵のリード音の方が、暗く聞こえる。
 

結局、そのまま曲は終わった。向日葵は、「イエーイ」と言って手を上げるが、なんとなくその笑顔は、張り付けた笑顔のように思える。
 

…そうだ。こんな時こそ、コンクールについて話してみるんだ。
 

『…いいな』
 

そう。向日葵が明るくなれるようなニュースを言って、盛り上げる。


それしか、解決策が思い浮かばなかった。


向日葵はコンクールに憧れているみたいだし、きっとこれはいいニュースだ。
 

コンクールには、大学のスカウトも来るって言ってたし、そうすれば、向日葵は大学にだって入学できる。

そして、本当にピアニストになって、俺のライバルにも、俺のパートナーにも、将来なれるんだ。
 

それに…。
 

それに、向日葵のピアノの音色を、みんなに知ってほしい、というのも、俺の考えの中に含まれていた。
 

一緒にピアノを弾いて、皆に向日葵の素晴らしさを知ってほしい。


そうすれば、向日葵が盲目だからって、白い目されることなんか、もうなくなるんだ。
 

そうだ。もしかしたら、向日葵が悩んでるのは、そのことかもしれない。

だったら、一気に解決までたどり着くではないか。
 

俺は、大きく深呼吸をした。