後ろから、俺の代わりに黒西が言う。伊藤は本気で驚いているらしい。
そんな伊藤に、こっちも驚いてしまいそうになった。
「黒西は分かるのか?」
俺の問いかけに、黒西は人差し指をたてた。
誇らしげな表情だ。まるで、自分にしか分からない問題を、クラスメイトに説明しているように思えた。
実際そうなのだが
「剣道は一試合三本勝負。先に、面、小手、胴を二本先取した人の勝ち。でも、もし時間内に、一本しかとれなかったらその人の勝ち。選手がポイントを獲得したかどうかは、審判の判断次第ってわけ」
「すげー。黒西、そんなに知ってるんだ」
心の中に浮かんだ言葉を、そのままいった。
なんだかんだ言って、黒西は色んなことを知っている。
この前だって、リストの曲を知っていたわけだし、案外頭がいいのかもしれない。
ところが、伊藤は怪訝そうな顔をして、「けっ」と吐き捨てた。
「なーに、気取ってんだよ。パンフレットの裏にルールが書いてあるし、さっき必死に読み込んでいただろ」
え、俺見てないぞ、と言いそうになったが、それよりも早く黒西の顔が紅潮する。
「なっ。なんでそういうこと言うのよ、このバカ和仁!」
黒西が、本気で伊藤を叩いた。痛そう、と思ったが、伊藤は黒西をからかうように、笑い続けていた。
