電車に乗って、会場がある街で降りる。駅からは、徒歩二分くらいだった。
「お、空川!」
会場の入り口付近で、私服を着た伊藤と黒西が、俺に気づいて手を振ってくれた。
俺も、手を振りながら、二人に駆け寄る。
「ごめん。ちょっと遅くなったか?」
少し息を切らし気味に言うと、黒西は首を横に振った。
「そんなことないわよ。まだ、十二時半だし。私たちもさっき来たばかりだもん。ね?」
「ああ。でも、早く席はとっとこうぜ。ベストポジションで見たいからな」
「あら、和仁にしちゃ、いいこと言うわね。褒めてつかわす」
「いつから俺は、お前の召使になったんだ!」
言い合いをしながら会場に入ってく二人を見て、俺は正直嬉しくなった。
もしかしたら、今、黒西は伊藤に惹かれているんじゃないか、とか。これで一層、仲が深まるんじゃないか、とか。そんなことを思いながら。
俺も、二人に続いて会場に入った。
熱気と、ピアノのコンクールの時にも感じる、張り詰めた緊張感。
応援席からの応援声や、関係者による打ち合わせの声。はっきり言って、うるさいという表現が、一番当てはまっている。
「なんか、大会って感じだよな」
伊藤の言葉に、俺も頷いた。
「ああ。こっちまで緊張してくる」
三人で、一番見やすいであろう、前列の席を取る。そこで、黒西はどこから手に入れてきたのか、パンフレットを覗き込んだ。
