それからの一週間は平和だった。


向日葵への恋心に気づいてからも、普通に向日葵と接していけているし、伊藤も表向きでは、全然普通で、むしろうるさいくらいだった。
 

金曜日の放課後、いつも通り音楽室に行こうとしたところで、水田に声を掛けられた。
 

『明日さ、午後一時から大会が、小宇(おう)ドームであるんだ。よかったら、見に来てくれないかな?黒西と伊藤も来るって言ってた』
 

もちろん了承した。あれだけ頑張っていた、水田の試合だ。見に行くに決まっている。
 

そして、その土曜日がきた。
 

「行ってきます」
 

俺は、それだけ言うと、玄関に向かう。
 

「どこに行くの?」
 

母さんの問いかけが聞こえてきた。俺は、足を止める。
 

「友達の大会を見に行ってくる」
 
「そ」
 

別段気にしてない様子だ。俺は、心の中で少し安堵のため息をつくと、改めて玄関に向かった。
 

本当に、びっくりするくらいに、「練習」という単語を聞かなくなった。

あれだけ厳しかった母さんが、俺が思い切って自分の気持ちをぶつけたくらいで、ここまで変わるのか。
 

もっと早く勇気を出しておけばよかったと、最近では、今まで悩んでいたことが、バカらしく思えてくれるくらいだ。





小宇ドームは、結構でかいドームだし、予選大会にはうってつけの場所だろう。電車で行くと、ニ十分くらいだろうか。