「私、ずっと空川のピアノ聴きたいって思ってたけど、言い出せなかったの。お願い、空川のピアノ聴かせて!」
 

そう叫んだかと思うと、黒西は思いっきり勢いをつけて、頭を下げた。

周りの人たちも、あまりの大声にぎょっとして、こっちを見ている。
 

あ、そうか、そっちか…。とりあえず安心しながらも、どう返事をしようか迷ってしまい、目が泳ぐ。

すると、水田が俺の肩を、優しく叩いた。
 

「いいじゃん。僕も、空川のピアノ聴きたい」
 
「俺も、俺も!」
 

伊藤の元気な声も上がる。満場一致、というやつだ。

俺は静かにため息をつくと、「分かった」と答えた。
 

「やったー!よし、今すぐ音楽室に行こう!」
 

黒西は、そう言ったかと思うと、食べかけの弁当も気にせずに、俺の腕を引っ張って教室を出ようとする。
 

後ろからは、呆れたように微笑む、水田と伊藤がいた。
 

それにしても、黒西がここまで俺のピアノを聴きたいと思ってくれてるなんて、まるで気付かなかった。
 

そういえば、俺がクラスメイトの前でピアノを弾いたとき、黒西だけはものすごい勢いで、俺のピアノを褒めてくれた。


あの時、黒西がああ言ってくれたことで、俺の心はだいぶ楽になった。


その後、悪魔みたいと言われた時も、黒西は必死になって言い返してくれてたし、俺のピアノの事を本気で思ってくれてるんだな、と嬉しくなった。