水田はそう言うと、制服のすそを少しめくって、腕を見せた。


そこには、あまりにも痛々しい痣があった。血が死んで、赤いというよりもどす黒い色になっており、あんまり見つめているとこっちまで腕が痛くなってくる。
 

「強い先輩に手合わせをお願いしたら、ものすごい勢いでここに当たってさ。防具をしててもこんだけ痣が出来るんだから、あの先輩、余裕で不審者をやっつけれるんだろうね」
 

「いやいや、もっと思う事あるでしょ。その傷でなんとも思わないとか、感覚がどうかしてるわよ」
 

呑気な事を言う水田に、黒西が俺たちの言葉を代弁して、冷静な指摘をする。
 

「いやぁ、予選大会が来週に迫ってるしさ。そこで二位までに残らないと全国いけないし、今が頑張り時なんだよ」
 

「二位までとか、狭き門過ぎるだろ。あーあ、やっぱり絵はいいよな。全員、ちゃんとどっかに飾られるんだから」
 

伊藤はそう言って、後ろにのけぞる。俺はそんな態度に、思わず苦笑した。
 

「どの大会だって、ほとんどそれくらいだぞ?」
 
「そうそう。吹奏楽だって、金賞を取ったから、必ず全国に行けるって訳ではないんだし」
 

俺と黒西の言葉に、伊藤はさらにわざとらしくのけぞる。

そういうリアクションしかできないのか、と心の中で突っ込んだ。
 

「ありえんわぁ。そんな世界によく飛び込めるな」
 

すると、水田は裾をもとに戻しながら、ほんわかと笑った。