あの時、父さんは母さんの迫力に肩を震わせ、何も言わなくなったのだ。
母さんが俺を殴ったときも、ただ立ったまま、頬に手を当てた俺を見つめていただけ。
その時俺は気づいたのだ。父さんは本気で母さんを止めようとなんかしてない、本気で俺の事を想っていない、と。
それから、俺は父さんも母さんと同じような立場で見ている。
だから、笑顔も絶対に向けないし、平気で父親ぶっている父さんに、嫌気すらさしている。
「いやあ、それにしても久しぶりだよな、お前のピアノを聴くの」
誰が来なかったんだよ。まともに家にもいずに、まともに俺に向き合わなかったくせに。
ところが、そこで父さんは、俺の見ていたページにちらっと目を向けた。
本当にちらっとしか向けなかったが、その内容に、分かりやすいくらいに釘付けになっていく。
父さんは、黙ってサイトを消すと、パソコンを閉じた。
「日向、別にこんなこと気にしなくたっていいんだぞ。お前は、自分の弾きたいとおりに弾けば…」
「…いいよ、別に。あの時みたいに、曖昧な同情かけられたって、嬉しくもなんともない」
とうとう、俺の怒りは頂点に達した。
『あの時』の意味を瞬時に悟ったのか、父さんは何も言わずに、寂しそうな目で俺を見つめていた。
それでも、俺は何も言わずに自分の部屋に向かう。
二階をのぼってる時に聞こえた、母さんが食器を洗う音が、無性に耳にこびりついてしまった。
