…俺は、何かを勘違いしていたのかもしれない。
いつの間にか、『好き』という感情を持てれば、それだけでいいと思っていた。
それがあれば、俺は劣等感を感じなくなる、すべての悩みが解決される、と。
でも、偽物の『好き』を無理やり探したところで、俺は何も変わらない。
上っ面の達成感しか、手に入れることができない。
色んなものに追われて、無我夢中に走り過ぎていた。根本的な問題を、俺は忘れかけていたんだ。
「…ありがとう、ございます」
今は、誰かと話す余裕がない。俺は、お礼だけ言うと、音楽室を飛び出した。
無我夢中で走り続ける。下駄箱に着くと、乱雑に靴を履き替え、帰り道を走る。
息が切れてきた。心臓の鼓動が、確実に速くなっている。
なのに、俺の足は止まることを知らない。今なら、どこまでもこのまま走っていけそうだ。
なんなんだろう。嬉しいのか、悲しいのか。自分にも分からない。
今までの、自分の行動を悔やんでいるのか、はたまたそれに気づいて喜んでいるのか。
でも、一つだけわかること。
俺の顔は、笑ってなんかいなかった。
