ところが、先生が指揮棒を上げると、黒西は顔が引き締まって、すぐに先生の方に体を向けた。
なんか、かっこいいな。黒西の、真剣な表情で楽器を構えている姿に、俺は目が離せない。
そして、先生が指揮棒を動かし演奏がスタートする。
トロンボーンが前奏をリードし、そのままトランペットのリードに移る。
俺には、何の曲かは分からなかった。
クラシックはかなり知っている方だし、俺が分からないってことは、たぶんこの曲は今流行りの曲ってところだろう。
美しいというよりも、楽しい音楽を奏でられるのが、吹奏楽のいいところだ。
こういうのに憧れたことだって、何回もある。
音楽がサビに入る。打楽器の音が、より音のスケールを大きくしている。トランペットとフルートのリード音が、一層際立っていく。
ふと、黒西を見ると、黒西は笑っていた。
心底楽しそうに、たまに楽譜に目を移しながら、本当に楽しそうに演奏していた。
…またか。半分予測はできていたが、どうやら黒西も心から、この演奏を好きと思っているらしい。
そう思った途端、重なり合っていた音が、別々に聞こえてきた。トランペット、フルート、トロンボーン、サックスフォン、チューバ、クラリネット、オーボエ、そして打楽器。
すべてが壊れていく。一つの音楽が、いくつもの音になって俺の脳を支配する。
