…やっぱり見学はよそう。
俺は、ため息をつくと再び廊下を歩こうとした。
その瞬間。
「あ、なんだ。やっぱり空川だったか」
ガラっとドアが開いた音がしたと思ったら、突然自分の名前を呼ばれた。
一瞬ドキッとして、手をぎゅっと握ったが、聞き覚えのある声に俺は後ろを振り返った。
「見学に来たのか?」
案の定、そこにいたのは小島先生だった。
そうだ、小島先生は音楽の先生だから、吹奏楽部の顧問なんだ。
「あ、はい。ちょっと興味が湧いて」
黒西を見に来た、とは言えなかった。
例え信頼し始めた小島先生にも、誤解を与えるようなことは言えない。
「そうか。ドア越しに人影が見えたんだが、なんとなく空川っぽいなと思ってな。入れ」
先生は、そう言って俺を通してくれる。俺は頭を下げながら、先生にも聞こえないくらいの小さい息を吐くと、音楽室に入る。
中では、たくさんの人が楽譜とにらめっこしながら、それぞれの楽器を使って演奏している。
女子ばっかりかと思っていたが、意外と男子も多い。
「…なんか、新鮮です」
思わず心の中の言葉を、そのまま口に出してしまった。横で、先生が笑う。
「だろうな。クラシック専門でやってるやつは、こういうのはあんまり聞かないだろうから。俺も、最初顧問やったときはちょっと新鮮だったよ」
