「音楽室って新しく作ったときに、壁が防音になるように作ったんだよ。だから、よく聞こえたなーって…」
え?ああ、そうか。だから、一階下なだけなのにこんなに聞こえないのか。
「やっぱり、音楽やってると耳がよくなるのか?」
「あー。うん、まあなりたくてなってるわけじゃないけど」
俺はそう言って苦笑すると、無意識に手で耳を覆った。
ほんと、なりたくてなってるわけじゃない。
なんでも聞こえるようになると、別に聞きたくないような陰口だって聞こえてくるし、なによりこれじゃ完全に音楽人間だ。
そこで、俺は「あっ」と声をあげる。
「そうだ、俺黒西の部活も見に行こうと思ってたんだっけ。そろそろ行くわ」
すると、途端に伊藤の顔が赤くなる。
「て、てめえ、変なこと言ったら絶交だかんな!」
「わ、分かってるよ!俺も、そんなこと言うくらい空気読めない人間じゃないわ!」
俺は慌てて怒鳴り返すと、「じゃあな」と言って、伊藤に背を向けて歩き出す。
そのまま美術室を出ると、俺は長い廊下を歩き出した。
『それに、探してるってことは、まだ諦めてるわけではないってことだ』
ほんと、あいつからこんな言葉が聞けるなんてなぁ。
