少しでも意識していたら、伊藤みたいに動揺してるだろうけど、あの時の黒西はしていなかった。
きっとそれが、黒西が伊藤の事を幼馴染としか見てない証拠なのかもしれない。
しゅんとして窓の外を見ている伊藤に、俺はなんて言葉を掛けていいか分からず混乱した。
「そ、それにしても、お前の絵うまいな」
しーんとした空気に耐えれなくなり、俺は自分でも分かるくらいに無理やり話題を変えた。
無理やり過ぎたが、伊藤も話題を変えてほしかったのか、「ははっ」と笑いながら、顔を上げる。
「俺、勉強も運動もいまいちなんだけど、昔から絵だけはうまいんだよね。この学校にも、俺は美術推薦で入ったんだ」
伊藤は、愛おしそうに絵具セットを見つめている。
「絵を描いてる時が、一番俺にとっての幸せの時間なんだ。何もかも忘れられて、一つの作品を作ってる時も、出来上がるときも、いつも至福の時なんだ」
俺は、思わず目を伏せた。
なんなんだ。さっきの水田みたいに、伊藤までそんなに『好き』って気持ちがあるなんて。
いや、これも同じことだ。好きじゃなかったら、ここまで腕を極めれないだろうし、一つの物を完成まで継続出来ないだろう。
ピアノだってそうだ。最初、楽譜を見たときは間違いまくって、イライラして。でも、なんだかんだ言って暗譜できるようになるまで、練習し続ける。
