俺は首をかしげながら、先生のあとについていく。
 

階段を登りきって、右に曲がる。迷路みたいな道のりを、先生はすいすいと歩いていた。
 

やがて、長い廊下を歩いていくと、『2-2』という、プレートの前で先生は立ち止まった。
 

「ここが教室だ。呼んだら、入って来いよ」
 

先生はそう俺に言うと、ドアをがらりと開けて中に入っていく。
 

教室の中からは、ざわざわとにぎやかな声がたくさん聞こえてくる。
 

もうすぐ、大勢の人々の視線を、俺は浴びることとなる。
 

そう、あの時と同じだ。
 

俺は静かに目を閉じた。
 

たくさんの拍手を聞きながら、窮屈なタキシードに身を包んで、ロボットのように大きなグランドピアノに向かうとき。
 

好奇の視線、蔑みの視線、そして、俺の事をなんとも思っていない、無関心の視線。
 

無意識に太ももの上で、指を動かしながら、初めてコンクールに出たときに弾いた曲を、イメージで弾いてしまう。