「え?先生って、音楽担当なんですか?」
あまりの唐突な発言に、恐怖を忘れて先生に質問してしまった。
音楽教師なら、俺と同志だ。なんだか、一瞬にして緊張がほぐれる。
先生は少し微笑みながら頷いた。
「ああ。ピアノはもちろん出来るが、先生はどっちかっていうと、バイオリン専門でな。だから、きっとピアノの腕は、お前の方が上だ」
冗談めかしに笑いながら言う先生に、俺は表情を曇らせた。
しかし、先生はそんな俺には気づかず、喋り続ける。
「先生はもちろんバイオリンの方が好きだが、やっぱり空川はピアノが好きなんだろ?」
”好きなんだろ?”
一番聞かれたくない質問だった。
俺は、拳を震わせて、唇を噛む。
俺の不審な態度に気づいたのか、先生は俺を覗き込んだ。
「おい、どうしたんだ?」
俺と先生は、廊下の途中で立ち止まる。
俺は、顔を下に向けて、何も言えない。
胸の辺りが痛くなってくる。呼吸が微かに荒くなる。
