なんで、俺の腕を掴もうとした?
 

そう聞く前に、向日葵は改めて俺の腕をつかみ、静かにピアノから俺を遠ざけた。
 

「日向君、今日はピアノ弾いちゃダメ」
 
「え?なんで?」
 
「なんでって、分からないの?」
 

あっけにとらえる俺に、向日葵は両手を腰に当てた。

行動は幼いが、向日葵の顔は真剣そのもので、本当に何かと不安になった。
 

「…日向君、今ピアノ弾く気分じゃないんでしょ?そんな時に無理やり弾いたら、ピアノに申し訳ないよ」
 

ドクッ
 

ピアノに申し訳ない。
 

そういえば、考えたこともなかった。音楽が奏でられれば、それでいいと思っていたから。
 

心臓の鼓動が、大きく鳴った。でも、動揺した時に感じるような、嫌なものではない。

少し温かく、どちらかというと心地いい感じだ。
 

向日葵は黙っている。でも、さっきから瞳は全く動いていない。


俺を見てはいないが、その揺るがない瞳から、向日葵のあつい情熱はひしひしと伝わってくる。
 

もしかしたら、この俺の心情は、真っすぐで揺るぎない向日葵の態度が、影響しているのかもしれない。
 

「…そう、だな」
 

それだけ言って、俺は一つ深呼吸をした。
 

「そうだな。申し訳ないよな、ピアノに。正しいよ、向日葵は」