「え、と……。そしたら今日は、"お互いのことをよく知ろう"かな?」
つい考え込んでいると、春風みたいに優しい声が、耳に触れた。
ハッとしてミオを見ると、ミオは鞄の中から取り出した例の本を開いて、真剣な表情をしていた。
「え、と……。また参考になるかわからないけど、一応例文は……【相手のことを知るのは恋の第一歩! クールに見える彼が実は猫好きだったり、平凡そうな彼女の秘密を知ることで、ふたりの距離はグーンと近づいちゃうかも☆】って書いてある……」
本から目を上げて、困ったようにこちらを見るミオは、どこか不安そうにも見えた。
きっと、ミオが今こんな顔をしているのは俺のせいだ。
俺が、『本の内容を実践しよう』なんて、とんでもない提案をしたから彼女を不安にさせている。
とにかく焦ってばかりじゃ、何も始まらない。
まずは、この本の言うとおり、お互いのことをよく知ることから始めなきゃ。
俺は、もっと彼女のことを知りたくて……。
彼女に俺のことを知ってほしくて、細く頼りない糸を必死に繋ぎ止めたんだ。



