「……ヤバイ」
また勝手に、顔がニヤける。
ダメだとわかっていても、放課後、ミオに会えると思うと、それだけで舞い上がってしまう。
なにより、メッセージの中でミオが【ユウリくん】と呼んでくれることが、嬉しくてたまらなかった。
それだけじゃない。
彼女を、"ミオ"と呼べることも嬉くて仕方がない。
"ミオ"というのは、まだ、彼女が誰にも呼ばれたことのない特別な愛称だ。
つまり、俺だけが彼女のことをそう呼べるということで……。
「……顔面崩壊中のところ、悪いけど。ユウリさ。お前、ちゃんと自分が置かれてる状況わかってる?」
「……え?」
けれど、完全に浮足立っている俺を、常に地に足をつけたナルの冷静な声が現実へと引き戻した。
携帯電話から顔を上げてナルを見れば、切れ長の目が呆れたようにこちらを見ている。
「こっちはむさ苦しい男子校だけど、その……なんだっけ? ミオちゃん?とかいう子が通ってるのは共学だろ」
「うん、そうだけど……」
「つまり、女子と男子の比率は、ほぼ五対五ってことだ。ミオちゃんの周りには常に俺らと同世代の男がいる。その中に、お前と同じようにミオちゃんに好意を抱いてる男がいてもおかしくない。……で、ユウリよりも、同じ学校の男のほうが一緒にいる時間は長い」
「──っ、」
「むまり、何が言いたいかって言うと、圧倒的にお前は不利だし、今のところ勝てる見込みもないってことだ」
──俺以外にも、ミオに好意を抱いている男がいたら。
ナルの言葉に心臓がドクリと不穏な音を立てて、全身の血の気が引いていくような気持ちになった。
確かに、ナルの言うとおりだ。
俺がミオに好意を抱いているのと同じように、俺以外にもミオに好意を寄せている男がミオの近くにはいるかもしれない。



