「俺のことはいくらでも悪く言っていいけど、ミオは関係ないだろ。ミオはただ、俺の勢いに押されて、了承してくれただけで……」


ナルは動揺した素振りも見せずに、俺のことをジッと見上げていた。

かく言う俺は自分で言いながら、改めて現実をつきつけられた気がして、また語尾が小さくなった。

実際自分でも、昨日の一連のことを思い返すと、なぜあんなことを言ってしまったのかと頭を抱えたくもなる。

もっと他に言うべきことも、繋がりを持つ方法もあったはずなのに……。


『その本に書いてあることを、二人で実践するとか、どうかな?』


ほんと、なんであんなこと言っちゃったんだろう。

思い出すのは昨日の朝──ミオの愛読書を拾ったときのことだ。

以前から同じ電車で何度も彼女を見かけていた俺は、彼女……ミオに、惹かれていた。

毎朝、同じ時間、同じ車両に乗る女の子。

着ている制服は駅向こうにある高校のもので、胸についた赤いリボンが印象的だった。

彼女の存在に気がついてから、約二ヶ月。

ずっと、ミオに話しかけたいと思っていた。

けれどキッカケが掴めなくて、ただ彼女を遠くから眺めていることしかできなかったんだ。

彼女はいつも、朝の通学電車に揺られながら本を読んでいた。

俺はそんな彼女に──もうずっと前から、恋をしていた。