「あ、あの……っ。俺──」
「わ……っ。すみません、私、今日朝から委員会の仕事があって……っ。本当に、受け取ってくれてありがとうございました!」
「え……?」
どうして、拾ってもらった俺のほうが彼女にお礼を言われるんだろう。
思わず首を傾げて考えているうちに、彼女はあっという間に改札の向こうへと消えていった。
その、彼女の背中が完全に見えなくなってから我に返ると、手には自分の生徒手帳が乗っている。
「ふ、は……っ。ありがとうって、俺のセリフじゃん……っ。くそ可愛い──」
受け取ってくれて、ありがとうって。
こちらこそ、拾ってくれてありがとうと言いそびれた。
それからはもう、あっという間だ。
彼女のことしか考えられなくなって、彼女以外の女の子は目に入らなくなっていた。
どこにでもあるような、有り触れた出来事で、それでも俺にとっては彼女に惹かれるには十分な出来事だった。



