「──ここ、どうぞ」 息苦しい朝の満員電車は、誰もが自分のことで精一杯だ。 携帯電話でゲームをしている学生や会社員、音楽を聞きながら目を閉じている人たちや、分厚い本を読みこんでいる人。 みんな、自分の世界を守ることに必死だった。 そんな窮屈な世界から、ひとり抜け出した彼女の声は、あの日不思議と鮮明に耳に届いた。