「……ここまでくれば、いいでしょ。ってことで、まずは一発殴らせて」
「え?」
構える間もなかった。
公園につくなりそう言ったたっちゃんは、振り向くなり拳ではなく平手で、俺の頬をペチンと叩いたのだ。
「……ふざけるのも大概にしろよ」
ピリ、とした痛みが頬に走る。
続けて放たれたたっちゃんの強い口調には怒りが滲んでいて、思わず頬を抑えて押し黙った。
「僕、前に言ったよね? 美織を傷つけたら許さないって。そのときアンタは、美織を傷つけたりしないって言った。それなのに……何してんだよ。アンタの美織に対する気持ちは所詮、その程度のものだったわけ?」
ほんの少し息を切らせて、俺を睨むたっちゃんの目は、怒りで濡れていた。
やっぱりたっちゃんは、ミオのことを話しに俺のところまでやってきたんだ。
叩かれた頬はジンジンと痛んで、胸にはヒリヒリとした痛みを残す。
「僕は、アンタなら美織のこと大切にしてくれると思ってた。友達として……アンタになら、美織のことを任せられるって思ってたんだよ」
──友達として。
たっちゃんは断言するけれど、本当にそうなのだろうか。
ミオに救われた、たっちゃん。
少なくともそんなミオ相手に、たっちゃんは恋心のようなものを抱いているんじゃないだろうかという疑問がまた湧き上がった。
「たっちゃんこそ……本当に、それでいいのか?」
多分、そう思うのは今、俺自身がナルとのことで揺れているからなんだろう。
「たっちゃんは……本当は、俺と同じようにミオのことが好きなんじゃないのか!? 本当は、ミオのこと、誰にも渡したくないって思ってるんじゃないのかよ!?」
声を張り上げた俺を前に、たっちゃんが驚いたように目を見開いた。
そうして直後、その目を眇めて俺を見る。
灰色の瞳はやけに神秘的に見えて、喧嘩を売ったのはこっちの方なのに、思わず睨みに気圧された。



