「……っ、待って!」
「──っ、」
けれど、歩きだそうとした足が、再び、彼の声に呼び止められた。
驚いて弾かれたように振り向けば、何故かほんのりと頬を赤く染めた彼と目が合う。
「あ……あの、名前……! 名前、聞いてもいいかな?」
「え……」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
それでも彼の様子があまりに必死に見えたから、私は思わずジッと彼の顔を見つめてしまった。
「い、いや……急に、ごめん。でもせめて、名前だけでも知りたくて……」
右手の甲で口元を隠して、視線を斜め下に逸らした彼を見て思う。
あ……え、嘘。
もしかして、この本の著者名?
まさか、彼もこの本を気に入って、この本を書いた【作者の名前】を知りたいということだろうか。



