「よかった。やっぱり君のだったんだ」
けれど、そんな私の心情を知ってか知らずか、安心したようにホッと息を吐いた彼は小さく笑った。
その笑顔を見て、なんとも言えない気持ちになる。
だけどすぐにまた恥ずかしさが込み上げて、思わずギュッと瞼を閉じた。
だって、この、誰が見てもイケメンで、絵に描いたような好青年さんに、恋に飢えている女だと知られたのだ。
くだらない本を愛読している、変な奴だと思われているかもしれない。
「その本、値段を見たら結構高かったからさ。失くしたら落ち込むだろうなーって思ったんだ」
だけど彼に、罪はない。
フォローされればされるほど恥ずかしくなって、私は余計に顔を上げられなくなった。
「……あ、ありがとうございます、助かりました。それじゃあ私はこれで、失礼します」
だから結局それだけを言うのが精一杯で、再び定期を握りしめると改札に向けて踵を返した。
一刻も早く、この場所から離れたかった。
今すぐにでも彼の前から消えて、すべてをなかったことにしたかった。



