「ねぇ、待って!」 「……っ、」 改札の近くの壁に背を預けていたその人は、慌てた様子で私のそばまで駆けてくる。 ──誰? と、見覚えのない彼を見て首を傾げた私は足を止めたあとで、彼の手の中にある本を見て、固まった。 「これ、やっぱり君のだろ?」 「──!」 ──嘘でしょう? 彼に差し出されたものは、間違いなく私が今朝落とした本で……。 私がもう二度と、読むことはないだろうと諦めていたものだった。