「まだ全部、読めてなかったけど……」
お値段もそれなりにする本だった。
だけどもう、諦めるしかない。
だって、『朝、【恋を叶える12のレッスン】という本を落としたんですけど』……なんて、駅員さんに言うのは自殺行為だ。
それこそ『この女子高生がこの本の持ち主かよ……』と思われるだろうし、駅員さんの前で大恥をかく羽目になる。
「まぁ、これに懲りたら、ああいうしょーもない恋愛指南書なんかに頼るのは止めなさいよ」
手鏡で自分のつけ睫毛を直しながら、たっちゃんが呟いた。
「あんな本を読んだところでね、美織がしたい"理想の恋"ができるわけじゃないんだから」
「……わかってるよ」
また唇を尖らせた私は、溜め息混じりに不貞腐れた。
……わかってるよ、そんなこと。
これまでだってあの手の本は何冊も読んできたけれど、何かが変わったわけじゃない。
──それでもただ、なんとなく。
みんながしている『恋』に憧れて、自分も恋をしてみたいと思っていた。
たっちゃんはそれを、『恋に恋してるだけ』だと言って呆れているけれど、事実だから仕方がない。
恋する女の子たちはいつだって可愛いから、憧れずにはいられなかった。
私もいつか──素敵な恋をしてみたい。



