「履いてたのがスニーカーだったし、多分……学生さんだと思うけど、顔を見る余裕はなかったよ」
「え〜! せっかく良い出会いだったかもしれないのに!」
残念そうに息を吐いたたっちゃんは、無類のイケメン好きなのだ。
恋愛対象は一応女の子らしいけど、イケメン男子は目の保養になるから大切らしい。
「良い出会い、かぁ……」
ぽつりと溢して、肩下まで伸びた髪に指を通した。
そんなこと、まるで考えもしなかった。
そういえば、あの本の最初の章も"運命の出会い"について書いてあったんだ。
──恋を掴むにはまず、運命の出会いを演出しよう!
なんて、改めて思い返すと余計に恥ずかしいけれど、もう二度と、アレを読むこともできないだろう。
あの親切さんが落とし物として駅員さんに渡してくれている可能性もあるけれど、それを取りに行く勇気は私には、ない。



