「……だけど、そんなふうに開き直って一人でいようとする僕を……美織が、一人にはしてくれなかった」
「え……?」
「高校一年の時に、同じクラスに美織がいてね。教室で、いつも一人でいる僕に、美織が何度も何度もしつこく話しかけてきたの。メイクの仕方が綺麗だとか、髪色がオシャレだとかネイルが可愛いだとか……。それこそ、僕が鬱陶しいって顔をしても、めげずに何度も話しかけてくるから、いい加減こっちも諦めて……」
「ミオ、が……」
「そう。それで気がついたら一年が過ぎていて、いつの間にか美織と一緒にいるのが当たり前になってた。今では美織のおかげでクラスにも馴染めているし、僕は"男だから女だから"とかじゃなく、"僕"として認めてもらって、批判的な声も、もうほとんど聞こえなくなったよ」
頬杖をつき、そっと目を細めたたっちゃんの笑顔は優しかった。
思わず見惚れそうになって──慌ててハッと、我に返ると息を呑む。
「だけど別に、周りが大きく変わったわけじゃないんだよね。多分、変わったのは僕自身なんだ。批判的な周りの声が、前よりも気にならなくなったってだけ」
「周りの声が……?」
「うん。それは美織が、僕という人間を認めてくれたから……。美織が他の誰とも比べずに、僕を僕という一人の人間として見てくれたから、僕は僕自身を認めてあげることができたんだと思う」
凜と通る声でそう言ったたっちゃんの頬には、ほんの少しの赤が差していた。
そんなたっちゃんの姿は男らしいのに、やっぱりとても綺麗だった。



