混乱する頭で、やっとの思いで菱川先生から離れると頭を撫でてくれた。


「ハナちゃん、もっと俺を求めてくれてもいいよ」


響いた言葉の意味を受け止めきれなくて、返事はできなかった。


「俺はハナちゃんの気持ちに応えるだけの、器も覚悟もあるつもりだからね。ーーさぁ残りは明日にしようか」


ケーキを片手に立ち上がった先生の後ろ姿を見つめる。


背が高くて、足が長くて。

抱きついて分かった。
細身だけれど、ちゃんと筋肉がついていて。

長い睫毛に高い鼻。きめ細かい綺麗な肌。

清々しいほどの笑顔を見せてくれて、頭も良くて。


完璧な大人だ。


私とは本来は交わることのなかった菱川先生の人生に、踏み込んでいいものだろうか。


塾講師と生徒以上に、親しくなっても許されるのだろうか。


「ハナちゃん、空いたお皿もってきてくれる?」


「はい!」


いつも通りの彼に女々しい気持ちを振り払い、立ち上がる。


今夜は考えずにいよう。

素敵すぎる夜だからーー。