さりげなく触れた手をどかしたいのに、力を込められて阻止される。
気持ち悪い。
この年齢になったら友達とすらあまり手を繋がないと思うのに、許可もなくどうしてこんなことができるのだろう。
もっとあからさまに嫌がった方がいい?
「あの手を…辞書取りたいから」
「ん?あ、どうぞ」
それっぽい言い訳が見つかって、そっと手を引っ込める。
崎島は表情を変えることなく、ヘラヘラと笑った。
「良かったら今夜、飯でも食いながら勉強しない?」
「母が待ってるので…」
「でも一昨日は電気、点いてなかったよね。本当は遅くまで仕事なんじゃないの?」
焦る。
上手い言い訳が出てこない。
電気?そりゃぁ点いてないけど…。
そしてすぐにハッとする。
「なんで、うちが電気点いてないって分かるの?」
「大野が逃げた後、アパートの表札見て回ったから。2階なんだね」
「……」
平然と彼は答えた。
助けを求められる人がいて、快く私に新しい居場所を与えてくれる人がいて、本当に、本当に良かった……。
温かく、母の思い出の詰まったアパートは、今や危険地帯だ。
薄い壁と、すぐに壊れてしまいそうな安物の鍵のついた扉の前で、安眠できるはずがないのだから。


