少しきつい印象を受けるつり気味の目は、真っ直ぐに私を捕らえた。
「托人の女性関係には触れるな」
「女性…関係?」
想像していたものと違う。
「いいな。それがこの家の唯一のルールだ」
理由を聞いてはならない空気。
さっきの菱川先生の言葉を真に受けているのかな。
「…普通は菱川先生を好きになるな、とかではないんですか?」
「そういうもんか?」
首を傾げた緒方さんは立ち上がった。
とっても足が長い。
「おまえの気持ちは強制できないだろ。ただ、あいつの過去をあまり詮索するなってことだ」
キッチンにマグカップを置いた緒方さんは笑った。くるりとカールした髪を掻き上げる。
「なんつーか、俺も過保護だな」
「そんなことないですよ。菱川先生の過去を詮索しません。約束は守りますから、安心してください」
詮索するなと言われれば、気になってしまう。でも私を迎え入れてくれた緒方さんを裏切るわけにはいかないよね。
菱川先生の昔話は聞かない。
その日、私はそう誓った。


