雨宿り〜大きな傘を君に〜


塾に行く菱川先生を見送り、リビングには新聞を広げる緒方さんと、お代わりを入れてもらったばかりの紅茶を飲む私だけ残された。


部屋に戻って勉強を進めたい気持ちにもなるが、居候の身で挨拶もそこそこに引っ込むことは礼儀知らずになるかもしれない。


適当な話題を探す。


「あの、お家のルールはありますか?」


「ルール?」


緒方さんは新聞から目を離さずに言う。
やっと見つけた話題は初日には相応しい問いだと思う。

私が来たことでみなさんに不快な思いはさせたくないから、ちゃんと頭に入れておこう。


「俺も家を空けることが多いからな、門限とか細かいことは言わないよ。まぁ遅くなる時は連絡しな」


「はい、連絡します。後、お掃除とかお洗濯とか、私にできることがあれば何でもします」


「学生の本分は勉強と遊ぶことだろ。必要ない。あんま気を遣うなよ。疲れるだろ」


居心地の悪さを感じずにはいられなかったけれど。緒方さんのおかげで心が解放されたような、軽い気持ちになる。


ありがたい。


緒方さんも菱川先生もいい人で本当に良かった。



「ルール、ひとつだけあったわ」


新聞を畳んだ緒方さんはなにかを思い出したようだ。