スエットを借りて、洗面所を出た。


身体が温まり、濡れた髪も乾かすことができた。
家主が留守の間に申し訳ないな。後きちんとお礼を言わないと。


扉が開け放たれて光が漏れている部屋を覗けば、いい香りがした。

そこに先生がいて、声を掛ける。


「菱川先生、ありがとうございます」


「紅茶いれたから、ソファーに座ってて」


柑橘系の香りが漂う。


キッチンに立つ先生は後ろを向いていて、頭からタオルをかぶっている。寒くないかな。


「私が先にシャワー使ってすみません」


「寒くない?」


「いえ、先生こそ寒いでしょう…」


教卓にいる先生は神経質そうなのに、振り返り、私と目を合わせた彼の顔はとても柔らかく、


おまけにトレードマークとも言える、黒縁眼鏡を外していた。