タクシーは立派な一軒家の前で止まった。


ずっとアパート暮らしだったし、一軒家には憧れがあるんだよね。


車が2台停めてあるその横に玄関があり、表札に緒方と書かれていた。


インターフォンを押すと思いきや、パンツのポケットから鍵を取り出した菱川先生は何のためらいもなく鍵穴に差し込む。


合鍵を持つくらいに先生は緒方さんと親しいのだ。緒方さんってどんな人なんだろう。
お母さんよりも若い人だとは話に聞いている。


「どうぞ」


「お邪魔します」


扉を開けてもらう。

廊下、広いな…。


「2つ目の扉がお風呂だから。シャワー浴びておいで」


「でも先生が先に…」


「いいから、先にどうぞ。風邪ひかないうちにね」


なんだろう。
違和感。

菱川先生に優しくされると、くすぐったい。


だって、無愛想で、生徒と雑談しているところを見たことがないし、いつも淡々としているのに。


今夜は少し違う。