緒方さんとの約束がなしになったら、私は菱川先生の過去のことを聞いていいのだろうか。

先生は話してくれるのだろうか。


「そうだな、新しいルールは、なにがあっても成人するまでは此処にいることだ。おまえが嫌と言うなら、俺が托人を追い出してやるから」



新しいルールは緒方さんの優しさが込められた、私を想ってのものだった。



「緒方さんも、菱川先生も、どうしてそこまで良くしてくれるんですか」


「俺はただおまえの母親と約束したからだ。おまえの面倒を見ると約束したから、義務を果たすまで。おまえのためじゃなく、俺が口先だけの男にならないよう実行している」


「…お母さんとは、ただの知り合いなんですよね?」


緒方さんは30代中ばで、生きていたら母は47歳になる年だ。2人の接点はなんだろう。


「俺も一般企業に勤めている時期があってな。その時に同じ職場で働いていたおまえの母さんと知り合った。色々助けてもらったから、その時の恩をおまえに返してるだけだ…まぁ、托人と上手くやれ」


そう言葉を切り、緒方さんはシャワーを浴びると言って立ち上がった。


上手くやれ、具体的にどうすればいいのだろう。



「緒方さん」


その答えを緒方さんに求めることは違う。
それでも大人目線のアドバイスが欲しかった。


「私、菱川先生を好きなままでいても良いですか?」