苦い。
いつもはミルクと砂糖をたっぷり入れてるけれど、ブラックのまま口にする。


「分かった…現状のことだけを言わせて。有明から電話をもらった日、警察に行ったんだ」


警察?


「彼女が補導されて、身元引受人には本来ご両親を呼ぶべきなんだけど、彼女は俺の名前を挙げたんだ。だから俺は警察に行って、両親に連絡するように説得してきた」


確かに有明沙莉さんの外見は補導されてもおかしくないけれど、一体なにがあったのだろう。


「有明はただ俺に心配をかけたいだけだって分かっているし、困った俺の顔を見て楽しんでいるだけなんだけど。行かずには、いられなかった」


「菱川先生は優しいから…」


「でももう二度と迎えに行かないと伝えてきた。今後、有明になにがあっても駆けつけるつもりはない」


「嘘。先生は困った彼女を放ってなんていられない」


「…俺には君が居るから。有明とは関わるつもりはないよ」


濁りのない瞳を向けられて、戸惑う。

私のため?



「こんな俺を好きになってくれて、ありがとう」



先生はミルクに手を伸ばし、私の珈琲に注いでくれた。


「無理して背伸びしないで。ゆっくり大人になっていく君を1番近くで見守っているから」


優しく、温かいこの人を、
独り占めできたらどんなに良いだろう。


けれどあなたが、私のことを好きになる確率は0パーセントだから。そのことだけは忘れずにいよう。


好きになって欲しいだなんて、無理を口走らないようにーー。