柔らかい先生の唇に、自分のそれを押し付けると
羞恥よりも幸せを感じた。
微動だにしない先生の戸惑う顔が想像できて、しばらくの間、私は目を閉じていた。
しばらくと言っても、時間にしたら10秒とかそのくらいだと思う。時間が止まってくれたら良いのにね。
「…帰りたくないよ、先生」
菱川先生から離れて後ろを向く。
顔を見れない。
「………ハナちゃん?」
「ごめんなさい…」
振り返って目を合わせてきちんと謝るべきなのに、今はそうしたくない。
「ここは狭いし、とりあえず行こうか」
静かな声でそう言った先生の靴音が狭い路地に響いた。
私は後悔はしていない。
けれど先生にとっては迷惑な行為のはずだから。不快に感じたはずだ。
急に頭が冷えた。
「ごめんなさい…」
「ハナちゃん!」
先生が進む方向と反対、佐渡先生がいるその道へ、私は飛び出した。


