背後には硬い壁。
目の前には先生の綺麗な顔。
少し背伸びをすれば、形の良い唇に触れられそうな距離だ。
「ごめん、近かったね」
「……」
「あっち側に抜けられそうだから、あっちから帰ろうか」
吐息がかかる。
"帰る"という単語が、もの寂しく私の耳に残った。
帰るんだ。
私が早く行きたい場所を答えていれば、もう少し一緒にいられたのかな。
それとも他の先生の目もあるし、やっぱり帰ろうとするのかな。
その腕を掴んで引き止めても、あの夜と同じように先生は私を置いて行ってしまいそうで。
「先生、」
ーー帰りたくないよ。
そんな気持ちを込めて、
そっと、先生の唇にくちづけた。
私のファーストキスは自ら望んで、先生に渡した。
例え嫌な顔をして拒絶されても、後悔はしない。


