雨宿り〜大きな傘を君に〜


遠慮はしたが結局先生に奢ってもらい、店の外に出た。

時刻は13時。
このまま帰るのだろうか。
元来た道を辿る先生に聞きたい。

もう少し一緒にいれませんか?って。

でもこの後、菱川先生には予定があるかもしれないし。

確実に駅へ向かう菱川先生の後ろを黙ってついていく。しかしこちらの心境を察してくれたかのようにタイミングよく先生は顔だけこちらを向いて聞いてくれた。


「どこか行きたいところある?」


「はい!」


「どこ?」


「……え、っと」


行きたいところ、行きたいところ。
頭の中で単語を探すけれど、見つからない。

ただ菱川先生と一緒に居たいだけだから。


先生は足を止めて私の答えを待っていてくれた。


「あ、」


先生の声に顔を上げると、腕を掴まれた。

そのまま強い力で狭い路地に引っ張られる。人がひとり通れるくらいの道幅しかないところに押し込まれた。


「佐渡先生が居たから、じっとしてて」


佐渡(さど)先生…菱川先生と同じ数学講師で、担当は一般コースだから私は彼女の講義を受けたことはない。


じっとしてて、そう言われても。


菱川先生が近すぎて、心臓の音がうるさい。先生に聞こえてないといいけど…。