準備室。
そこは講師の机が並べられていて、学校で言う職員室のようなものだ。
室内に入り、菱川先生の姿を見た時、力が抜けた。
助かった…。
後ろ手に扉を閉める。
私が入って来た気配を感じているはずだけれど、菱川先生はパソコンの画面から顔を上げずに慣れた手つきでキーボードを叩く。
他の先生はいないようで、仕方なく1番話しにくい菱川先生の机に近寄る。
「菱川先生…」
「なにか」
「あっ、と…その…」
崎島くんに付き纏われて迷惑してます。
そう相談する相手としては菱川先生は不適切な気がした。きっと面倒臭そうな返事をくれるだけだ。
それに相談したところで、崎島のような秀才を手放したい塾はないだろうから、結局私が我慢するハメになるんだろうな。


