トレーに2つの湯呑みを乗せて、菱川先生の部屋をノックする。
「どうぞ」と、返事が聞こえたからそっと扉を開けた。
先生の部屋には、まだ入ったことがない。
「ありがとうね」
綺麗に整理されていて想像通りの部屋だった。
収納スペースに上手く納めているのか、必要最低限のものだけが置かれていた。
モノクロの家具で統一されていて、本棚には難しそうな書籍がたくさん並んでいる。
机に座る先生に湯呑みを渡すと、窓際に私の贈った【恋は雨音とともに】が飾られていた。
「読んだよ」
私の視線に気付いた先生は立ち上がり、本を手に取った。
「素敵なお話だったよ」
「ハッピーエンドでしたか?」
「…どうだろう。読んでみる?」
できれば幸せな結末を望んでいたのだけれど、菱川先生の口ぶりからすると悲恋なのかな。
「前向きなラストだったよ」
「それなら読んでみます」
本を受け取る。
「感想、聞かせてね」
「私も先生の感想が聞かたいです」
「それじゃぁハナちゃんが読み終わったらね」
程よく暖房のかかった部屋で、温かい空気に触れる。昨日までの気まずさはやはり此処にはなく、何事もなかったように振る舞う先生の大人な対応に合わせる。
お互いに嫌な思いをするくらいなら、わざわざ話をぶり返す必要はないのかな。スッキリしないけれど…。
「先生、明日はどうしますか?」
自然に聞こえるように、頑張れたかな。


