「ハナちゃん夕食は?」
濡れた洋服を着替えてリビングに戻ると菱川先生はお茶を淹れながら聞いてくれた。
「…食べてきました」
もしかしたら菱川先生は既に済ませているかもしれないけれど、私が食べてないと言えば嫌な顔をせずキッチンに立つだろう。気を遣わせたくなくて嘘をついた。
「そっか。お茶淹れる?」
「まだ終わっていない課題があるので…」
これは本当だ。
明日も出掛けるつもりでいるから、残りを早く終わらせてしまわないと。
そもそも明日の約束は有効なのだろうか。
なかったことにされたら、ショックだな。
「じゃぁ部屋に持って行くよ。俺も飲みたいから」
「それなら私が…」
立ち上がってお湯を沸かす先生の隣りに立つ。
遊んできた身分で先生にお茶を淹れさせるなんて何様だろう。
「そう?俺も採点しないといけないプリントあるから、部屋に持って来てくれる?」
「分かりました」
お願いね、そう言ってリビングを出て行った菱川先生は何も変わらない。
崎島のことを置いておくとしても、
有明沙莉さんの件で先生との関係が気まずくなったと思い込んでいたのは私だけなのかな。
私が気にしすぎていただけ?
なんだか拍子抜けだった。


