角を曲がれば家が見えてくる。
そう覚悟して十字路を右折したところに、黒い傘をさした菱川先生がいた。
「あれ?本当に近くだったんだ。もっと早く迎えに行けば良かったね」
「先生…」
濃い青のダウンとダメージジーンズ。先程と変わらぬ格好にも関わらず、表情が違うと纏っている空気までがらりと変わってしまう。
「濡れちゃったね」
私の花柄の傘を開いて差し出してくれた。
「ありがとうございます」
「早く帰ろう」
くるりと方向転換した菱川先生の背中を見つめる。怒られて当然なのに、一向に私を咎める気配はない。
「先生、ごめんなさい」
「いいよ。言いにくかったかな」
主語のない言葉だったけれど、先生はすぐに返答してくれた。
「心配かけたくなくて…」
「そっか」
深く追求されることはなかった。
それが少し寂しいだなんて、身勝手だよね。


