菱川先生と顔を合わせる気まずさを感じてはいるが、緒方さんが家にいる時間が増えたおかげで2人きりにならずに済んでいる。


「緒方さん、出張はどうされたのです?」


「若い子に譲った。若者にも勉強させないとな」


「あなたにしては珍しい発言ですね」


「嫌味を言うな。まぁさすがに明日からは家を空けるよ」


洗濯物を干しながら、背後の会話を聞いていた。


ありがとうございます、緒方さん…。
あなたのおかげで、先生とあの夜のことを話さずに済みました。





そして菱川先生と多くを話さないまま、土曜日になった。

正直、明日の約束が重い。
菱川先生の買い物に付き合うという約束は有効なのだろうか。

せっかく2人きりにならずに済んだのに…嫌でも話さないといけなくなる。いっそ断ってしまおうか。

そうだよ、買い物なら有明沙莉さんに頼めばいいじゃないか。私をリフレッシュさせたくて気を遣ってくれたのかもしれないけど、少しも嬉しくない。気遣われていることに息苦しささえも感じるようになってしまった。