~side 文香~


彼の腕の中で、彼の告白を噛み締めていた。

これが夢ではないことを願いながら、彼の温もりを感じていた。

そんなあたしに、彼は思い出したかのように口を開く。


「文香さん。そう言えば、本当に見合いする気だったんですか?」

「それは・・・」

最近になって、母親からよく電話が来ていた。

30歳を目前にした娘に彼氏が居ないことを苦にした母親の気持ちもわからないわけではないが、お見合い写真を送ってくるほど心配されていたらしい。

断ろうとは思っていたが、中々電話する勇気がなかった。

どうせ電話したところで、母親を納得させるだけの材料がないあたしは言いくるめられると思っていたから。