25話「涙と叫び声の湖」




 レイトはゆっくりと、水音に近づきてくる。
 その笑顔はいつもの優しくてキラキラしているものなのに、片手に持っている短剣が目に入り、恐ろしさが先にきてしまう。

 この短剣は何人の血を浴びてきたのだろうか。短剣が血に染まっているところを数回見ただけなのに、水音は恐ろしい物に見えてしまっていた。

 レイトがすぐ傍までくると、あまりの様子に水音は座ったまま後退りしてしまう。すると、指先に冷たいものが触れる。
 もう湖の近くまできてしまっていたのだ。
 逃げられる場所はどこにもない。


 「なんで逃げるんだい?ずっと心配してたんだ。シュリには悪いことされてないかな?」
 「シュリは私にそんな事しないわ。それより、レイトは大丈夫なの?怪我は……。」


 そういうと、レイトはニッコリと笑って「水音はやっぱり優しいね。」と言った。


 「傷はもう大丈夫だよ。治ったさ。」
 「それはよかったわ。」


 目の前まで来たレイトは、水音のすぐ傍で片膝を付いて座り、目線を水音に合わせた。


 「会いたかったよ。エニシがここに水音が来るかもしれないって言っていてね。エニシの占いは当たるんだ。」
 「そう………。私もレイトに会いたかったの。」
 「そうか!じゃあ、早く白蓮の家に戻ろうか。」


 レイトは嬉しそうに笑い、水音の手を取ろうとする。けれど、それを水音は避けて両手を自分の胸に当てて、彼を拒んだ。
 一瞬、驚いた顔をしたけれど、レイトは「どうしたの?」と、また手を差し伸べてくれる。
 けれども、水音は彼の手を取らずにレイトを見つめた。