その後、毎日お昼過ぎになると湖に集まり、雪香の持ってくる昼食を食べながら過ごした。
 話すのは、雪香がいた元の世界のばかりだった。彼女が他の世界から来たと言うのは、初めは信じられなかった。けれど、雪香が話す世界の話はどれもリアルで、聞いたことを彼女がスラスラと返事をするので、シュリとレイトはすぐにそれが真実だとわかった。



 「雪香さんがいたところでは、どうやって人を分けていくの?」
 「レイト、人はみんな平等でみんな同じなの。でも、裕福だったり、容姿が整っていたり、足が早かったり、個性は違うわ。」
 「だから、平等じゃないんだろ?」
 「そうかもしれない。でも、元の世界では自分の好きな事が出来たわ。仕事も遊びも、勉強も。それで頑張って成功すれば、裕福になったり、幸せになったりもする。けれど、失敗すればその逆もある。自由は、素晴らしいけど怖いところもあるわね。」
 「自由…………。」


 シュリは、その話や言葉を聞いて強い憧れを抱いた。生まれた瞬間に身分が決まるわけではない。自由に生きて、頑張り次第で変わっていく。
 

 「自由は少し怖いね。」
 「そうか?すごい楽しそうだろ!」
 「だって失敗したら、黒と同じみたいになるってことでしょ?」


 レイトは、それを想像して自分の体を抱き締めていた。確かに頑張って失敗してしまったら、黒の刻印よりも悲しみは大きいかもしれない。シュリも少し不安になってしまった。


 「大丈夫よ。みんなで助け合ってるから。失敗した人を助けて、またその人が頑張れるように応援するの。そして、その人が成功したら、今度は失敗してしまって困っている人を助ける。そうやって、繋がって生きていけば大丈夫。どうかしら、私がきた世界は。」


 ふたりは少し難しい内容に戸惑いながらも、他人が助け合う世界に、シュリは憧れた。
 ここは、人の物を奪い、勝ったものだけが生きていける世界。失敗など許されないし、自分か好きなことが出来るはずもない。

 それがわかると、シュリは雪香がいた世界が、とてもキラキラして素晴らしいものに感じられていた。


 「いいな!俺はそんな世界で行きたい!ここもそんな風になればいいのに……。」
 「………そう、ね。」
 「…………。」


 シュリが目を輝かせてそう言うと、雪香は悲しみ、そしてレイトは何かを考えるように俯いた。
 シュリだけが、見たこともない世界を見つめるかのように、雪香が来たと言う湖を希望をもった瞳で見つめ続けた。


 それからと言うもの、シュリは雪香が来るのを心待ちにして、そして異世界についていろいろ聞いた。聞けば聞くほど夢の国のようで、強くあこがれた。レイトには内緒で、湖の中に何回か入ってみたけれど、雪香がいた世界には行けなかった。



 そんな穏やかな日は、長くは続かなかった。