2話「残酷な現実」



  
 「………あなたは、私を知っているの?無色の君って、なんの事?」
 
 水音は、彼の言葉の意味をゆっくりと考えた後、彼に問い掛けた。
 すると、目の前の男は無表情のまま近づき、水音と目線を合わせるように、しゃがみこんだ。


 「それを知らないって事が、俺がおまえを必要としているって証拠だ。刻印なしの無色を知らない奴なんて、この国にはいない。」
 「………この国って何を。」
 「それとも、おまえはこの国で記憶喪失にでもなった奴か?だったら、刻印見せてみろ。白蓮ではないだろうから、緑草か、黒だろ?」
 「白蓮……、草?………黒?なんの事なの?ふざけないで。」
 

 水音は、彼が話している言葉がほとんど理解できなかった。彼の言う通りここは、水音がいた世界ではないのだろうか。
 銀髪の男の質問に答えられず戸惑っていると、男は苛立った表情を見せて、チッと舌打ちをした。


 「ったく、面倒くさいな。これだよ、体にどこかにこの刻印があるんだろ?」
 

 男はもともと胸元が空いていた服を、更に下に引いた。ちらりと見えていた褐色の肌が、月明かりの下で晒される。
 そこには、黒色で何かの印のような物がくっくりと刻まれていた。刺のある蔦が丸い物に巻き付いてるような刻印だった。


 「これが底辺の人間がつける黒の刻印だ。働いても見返りはなく、質素なんて良いもんじゃない、死と隣り合わせの生活をしてる奴らの印だ。」


 男は、自分を卑下する口調でそんな事を言った。
 水音は全てがわかったわけではないが、この黒の刻印がある人々は、酷い生活をしているのだけは理解出来た。


 「ねぇ、でも、あなたは着ている物も身に付けている物も貧相に見えないわ。あなたは黒の刻印なのに、どうしてなの?」
 「それ、知りたいか?」


 ニヤリと影を含んだ笑みを見せながら質問を質問で返されてしまう。彼の言葉を聞いてしまうと、悪い事が起こりそうで、水音は体をビクッとさせて震えた。