水音は当然の事を彼に聞いてしまう。
 彼が自分を物としてしか見ていないというのが、悲しかったからなのか、自分が怖くなったのか、わからない。けれども、どうしても聞きたかった。


 「それだけじゃないよ。」


 それは、嘘かもしれない。
 けれども、彼のにこやかで尊い物を見るような優しい表情を見ると、水音は安心したのだった。




 
 その日から、レイトの家でお姫様のような暮らしが始まった。
 仕事はもちもんないし、着せ替え人形のように毎日違うドレスを身に付け、宝石がついたアクセサリーをもらったり。食事も豪華だったし、好きなものを問われて答えれば、すぐにそれがプレゼントされた。


 「レイトさん、あのー、私もお料理とか、庭のお手入れとかしたいんだけど……。」
 「水音は、何もしなくていいんだよ?白蓮のよさを知ってほしいし。」
 

 レイトはいつもこう言って仕事の手伝いをさせてくれないのだ。
 一緒に本を読んだり、白蓮内にあるお店に行ったり、一緒に楽しんでくれる。
 けれども、水音の本当の願いを叶えてはくれないのだ。


 「水音の髪は綺麗だね。真っ黒で艶があって……それに肌もすごく触り心地がいいよね。」
 「あの……レイトさん。ここ外なんだけど………みんな見ていますよ?」
 「気にしないといい。ふたりの時間を楽しむべきだ。」


 そう言って、またレイトは水音の髪や頬に優しく触れる。
 レイトは甘やかすのと同時に、水音に積極的にアピールし、触れてくるようになっていた。
 一緒にお風呂に入ろうかと、冗談で言われたときは、驚いてしまったが、今の彼ならば言いそうなので、冗談に気がつかなかったぐらいだった。


 今日は天気がよく冬だと言うのに過ごしよかったので、上着を着こんで外で、マナにつくって作ってもらったパンと飲み物を持って、大きな広場まで来ていた。
 元の世界の公園や遊園地にあるような遊具やアトラクションがたくさんあり、子どもたちや、若い大人まで楽しんでいた。
 水音は元の世界でもほとんど遊んだことがなかったので、少し羨ましそうに見つめていると、レイトは「一緒にいこうか?」と誘ってくれたのだった。


 「ブランコみたいなのがある……。」
 「じゃあ、あれにしてみようか。」
 「はい!」


 水音が選んだのは、2人乗りのブランコのような物だった。ぐるぐると円上に回っていた。高さはあるものの、ブランコは好きだったし、子どもでも乗っている。それに、隣にはレイトが居てくれる。だから、大丈夫だろう。
 そう思っていたのだけれど………。


 「キャ、キャーー!何これこわい………落ちるーーっ!」
 「大丈夫だよ。水音、落ちないから。」
 「いや、降りたいー!」